研究とエビデンス
これまで多くの臨床研究が行われ、Close Collaboration with Parentsトレーニングの効果について量的・質的に検討されてきました。現在進行中の研究についてもご紹介します。
トレーニング内容やエビデンスまとめ
Ahlqvist-Björkroth S, Axelin A, Lehtonen L. Close Collaboration with Parents-Implementation and effectiveness. Acta Paediatr. 2024.
https://doi.org/10.1111/apa.17210
トレーニング内容やこれまでのエビデンスをまとめた文献です。
NICUのファミリーセンタードケア文化をより良くする
フィンランドでトレーニングを履修したNICUの履修前後を比較した研究が四つあります。
Itoshima R, Tuura K, Toome L, Varendi H, Saik P, Axelin A, Lehtonen L, Ahlqvist-Björkroth S. Outcomes following Close Collaboration with Parents Intervention in Neonatal Intensive Care Units. JAMA Open Netw. In press.
https://doi.org/ 10.1001/jamanetworkopen.2024.54099
- エストニアでトレーニングを履修した6つのNICUで実施された研究。エストニアでトレーニングを履修した6つのNICUで実施された研究。
- NICUのファミリーセンタードケア文化は9つの質問を用いて評価され、NICU入院中の赤ちゃんの両親およびNICUに勤務する全医療者の総合評価の両方で、トレーニング履修後に有意に改善した。
- 質問毎の評価で有意に改善したのは、両親が評価する傾聴能力・個別性のある指導・感情的支援、スタッフが評価する両親のケア参加・個別性のある指導・共同意思決定・医療者と両親の相互の信頼・個別性のある情報提供・感情的支援・医師回診への参加であった。
- トレーニングの介入実施忠実度(Implementation fidelity)をスタッフのトレーニング完遂率で評価し、NICUによって13.3%から82.2%まで幅があった。
- 高い介入実施忠実度を持つNICUでは、ファミリーセードケア文化がより大きく改善した
Toivonen M, Lehtonen L, Ahlqvist-Björkroth S, Axelin A. Effects of the Close Collaboration With Parents Intervention on the Quality of Family-Centered Care in NICUs. Adv Neonatal Care. 2023;23(3):281-289.
https://doi.org/10.1097/anc.0000000000000953
- フィンランドでトレーニングを履修した5つのNICUで行われた研究。
- NICUのファミリーセンタードケア文化は8あるいは9つの質問を用いて評価され、父親および看護師の総合評価の両方で、トレーニング履修後に有意に改善した。母親の総合評価は有意に変化しなかった。
- 質問毎の評価で有意に改善したのは、父が評価する共同意思決定、看護師が評価する傾聴能力・両親からスタッフへの信頼・両親への感情的支援の項目であった。
Toivonen M, Lehtonen L, Löyttyniemi E, Ahlqvist-Björkroth S, Axelin A. Close Collaboration with Parents intervention improves family-centered care in different neonatal unit contexts: a pre-post study. Pediatr Res. 2020;88(3):421-428
https://doi.org/10.1038/s41390-020-0934-2
- フィンランドでトレーニングを履修した8つのNICUで行われた研究。
- ファミリーセンタードケアの質をBliss Baby Charter audit toolでスタッフ・両親の両面から評価し、全てのNICUで履修後に質が向上した。
- インタビューには介入前後それぞれ50人前後の看護師(看護師長・看護スタッフ含む)とそれぞれ30人前後の父母が含まれた。履修後の施設では、集中治療を要する赤ちゃんにも両親がケア参加しやすくなり、看護師の退院を見据えた支援が向上し、赤ちゃんの行動に応じた個別ケアがよりよく提供されるようになった。
Axelin A, Ahlqvist-Björkroth S, Kauppila W, Boukydis Z, Lehtonen L. Nurses' perspectives on the close collaboration with parents training program in the NICU. MCN Am J Matern Child Nurs. 2014;39(4):260-8.
https://doi.org/10.1097/nmc.0000000000000061
- フィンランドで最初にトレーニングを履修したNICUで、看護師22人を対象に行われたインタビューの解析研究。
- 看護師はトレーニングによって有益な変化を得た。看護師の役割は、ケアする主体から、両親が赤ちゃんをケアするのを助けるファシリテーターへと変化した。
- その役割変化により、両親が赤ちゃんのケアへ参加する機会が増え、両親の心理社会的状況をより理解できるようになった。
NICUの両親の滞在時間やカンガルーケア時間を延ばす
He FB, Axelin A, Ahlqvist-Björkroth S, Raiskila S, Löyttyniemi E, Lehtonen L. Effectiveness of the Close Collaboration with Parents intervention on parent-infant closeness in NICU. BMC Pediatr. 2021;21(1):28.
https://doi.org/10.1186/s12887-020-02474-2
- フィンランドでトレーニングを履修した9つのNICUで行われた、NICU入院児およびその両親を対象にした研究。
- NICU滞在時間が、履修後に父母ともに有意に延長した。
- 母あるいは父母どちらかのカンガルーケアの時間も有意に延長した。
早産児の母の産後の気分の落ち込みを減らす
Ahlqvist-Björkroth S, Axelin A, Korja R, Lehtonen L. An educational intervention for NICU staff decreased maternal postpartum depression. Pediatr Res. 2019;85(7):982-986.
https://doi.org/10.1038/s41390-019-0306-y
- フィンランドで最初にトレーニングを履修したNICUで、出生体重1500g以下の児およびその家族を対象にした研究。
- エジンバラ産後うつ病質問票で修正4-6か月での産後抑うつ気分の評価をし、履修後にその点数が有意に低下した(産後抑うつ気分が改善)。
Ahlqvist-Björkroth S, Axelin A, Setänen S, Huhtala M, Korja R, Pape B, Lehtonen L. Fewer maternal depression symptoms after the Close Collaboration with Parents intervention: Two-year follow-up. Acta Paediatr. 2022;111(6):1160-1166
https://doi.org/10.1111/apa.16303
- フィンランドで最初にトレーニングを履修したNICUで、出生体重1500g以下の児およびその家族を対象にした研究。
- エジンバラ産後うつ病質問票で修正2歳での産後抑うつ気分の評価をし、履修後にその点数が有意に低下した(点数が低いほうが抑うつ気分が少ない)。
早産児の成長を改善し入院期間を短縮する
Itoshima R, Helenius K, Ahlqvist-Björkroth S, Vahlberg T, Lehtonen L. Close Collaboration with Parents Affects the Length of Stay and Growth in Preterm Infants: A Register-Based Study in Finland. Neonatology. 2024;121(3):351-358.
https://doi.org/10.1159/000535517
- フィンランドの全てのNICU(23か所)へ2006-2020年に入院した早産児(在胎35週未満)を対象にしたデータベース研究。
- 履修により、早産児のNICU入院期間が1.8日(6%)短縮し、NICUでの成長速度が体重+11.7g/週、身長1.3mm/週改善した。退院後の歴1歳までの予定外の外来受診のオッズが有意に減少した(オッズ比0.81)。
現在進行中の研究
日本のNICUにおける両親の退院準備への影響を検討する研究
- 介入が両親のNICUからの退院準備へ与える影響を検討
- ClinicalTrials.govに登録済(https://clinicaltrials.gov/study/NCT06057974)
日本での実績
活動実績
2024年11月 | 長野県立こども病院のファミリーセンタードケアやClose Collaboration with Parentsトレーニングの様子が長野朝日放送で放映され、YouTubeチャンネルで紹介されました https://www.youtube.com/watch?v=uAnwD-FNxcU |
2024年11月 | 東京都庁にて、糸島亮 医師、Sari Ahlqvist-Björkroth、Sanna Pickが「Close Collaboration with Parents トレーニング ファミリーセンタードケアのマインドを変える教育プログラム」のタイトルで講演 |
2024年11月 | 第68回日本新生児成育医学会・学術集会(長野県松本市)をFamily centered careのこれからをテーマに開催。講演やシンポジウム、ワークショップなどへ小田新 医師、糸島亮 医師、岡部稔枝 看護師、野田磨紀子 助産師、田中祐子 看護師が参加。フィンランドからLiisa Lehtonen、Sari Ahlqvist-Björkroth、Sanna Pick、Siw Hellstenが来日し講演 |
2024年7月 | 第2回ファミリーセンタードケア・クロストークmeeting「ともに学びあおう! ファミリーセンタードケア」(大阪、メディカ出版主催)で小田新 医師、糸島亮 医師、八田佳奈恵 看護師、有賀さゆり 看護師が講演 |
2024年3月 | 小田新 医師がファミリーセンタードケアに関する総説を下記の雑誌に寄稿 小田新. ファミリーセンタードケアとは何か. 小児科学会雑誌2024;128(3):443-452. |
2024年2月 | 小田新 医師が第1回 日本臨床小児緩和ケア研究会(JCPCN)にて以下の教育講演を実施(大阪府) 「NICUにおけるファミリセンタードケア」 |
2023年11月 | 長野県立こども病院NICUでのスタッフのトレーニング履修が開始 |
2023年10月 | 第1回ファミリーセンタードケア・クロストークmeeting「ともに学びあおう! ファミリーセンタードケア」(東京、メディカ出版主催)で小田新 医師、糸島亮 医師、野田磨紀子 助産師が講演、フィンランドからLiisa Lehtonen、Sari Ahlqvist-Björkroth、Sanna Pick、Siw Hellstenが来日し講演 |
2023年7月 | 第1回ファミリーセンタードケア・クロストークWebinar(メディカ出版主催)で小田新 医師と糸島亮 医師が講演 |
2023年5月 | 長野県立こども病院NICUがClose Collaboration with Parentsトレーニングの履修を開始 |
2023-2024年 | 糸島亮 医師がwithNEO(メディカ出版)にて連載「一歩先行くファミリーセンタードケア」を担当(全9回) |
2022年8月 | フィンランド・トゥルクで第1回 日本フィンランド合同新生児セミナーを開催。ファミリーセンタードケアとClose Collaboration with Parentsトレーニングをテーマにし、廣間武彦 医師、小田新 医師、小川亮 医師、百瀬弓子 看護師、岡部稔枝 看護師、野田磨紀子 助産師、桜井さつき 看護師が参加 |
2020年から | 糸島亮 医師が長野県立こども病院からフィンランド・トゥルク大学へ留学(研究員、博士課程学生) |
2019年7月 | Liisa Lehtonenらがフィンランドから来日、第55回日本周産期・新生児医学会学術集会(長野県松本市)でファミリーセンタードケアやClose Collaboration with Parentsトレーニングについて講演 |
獲得資金
- 2024年 スカンジナビア・ニッポンササカワ財団助成事業
「フィンランドとスウェーデンの2病院の訪問から、新生児集中治療におけるカプレット・ケアの実際を理解する」
40万円 - 2024年 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)(一般)
「新生児集中治療室におけるファミリーセンタードケアの医療社会学的有用性の評価」
360万円 - 2022年 日本学術振興会 二国間交流事業共同研究・セミナー
「新生児集中治療領域における家族中心のケアは医療費を削減し新生児の予後を改善するか」
250万円 - 2020年 令和2年度長野県立こども病院臨床医学研究助成
「新生児病棟におけるFamily Centered Careの現状および効果の検討」
30万円