概要
Close Collaboration with Parentsトレーニングは、NICUを含む新生児病棟でファミリーセンタードケアを推進するための、医療スタッフ向け教育プログラムです。
スタッフは、理論の学習やベッドサイドでのトレーニング、その振り返りを通じて、日々の家族との関わり方(コミュニケーション)や、家族を巻き込む重要性を理解します。NICUの多くのスタッフがマインドを変え目標を共有することで、病棟全体のファミリーセンタードケアの実践が変化し、最終的に赤ちゃんやその家族に良い効果がもたらされます。

NICUとしてのトレーニング履修は、2段階にわけられます。まず施設の履修を実際に進めるメンター(施設あたり通常3-4名)が履修し、その後にそのメンターが他のスタッフ(メンティー)へトレーニングを行います。NICU全体の履修期間はメンターのトレーニングに半年、スタッフのトレーニングに1年で、計約1.5年です。
トレーニングの内容
トレーニングでは医療者が、いつもとは少し違う家族との関わりを経験します。その中で、コミュニケーションによって家族を支援することの意味を肌で実感します。具体的なコミュニケーション技術も学びますが、どちらかというと「いつもと違う経験」から学ぶことに主眼が置かれます。
個人単位のトレーニング内容は、フェーズと呼ばれる4つの段階に分かれています。それぞれのフェーズで、トレーニングを受講するメンティーは、Eラーニングで理論を学び、メンターとともにベッドサイドトレーニングを行い、その後にそれを振り返ります。トレーニングには一人あたり計36時間(約5日)を要します。
トレーニングはⅠ~Ⅳフェーズに分かれています。

フェーズI:赤ちゃんの行動観察
赤ちゃんの行動の観察は、赤ちゃんに合わせたケアや発達段階に合わせた支援に欠かせないものです。フェーズII以降で両親と一緒に赤ちゃんの行動を観察しますが、その基礎にもなります。Close Collaboration with Parentsトレーニングでの系統的な行動観察は、新生児行動評価(Neonatal Behavioral Assessment Scale, NBAS)、早産児行動評価(Assessment of Preterm Infant Behavior, APIB)およびNICUネットワーク神経行動尺度(Neonatal Network Neurobehavioral Scale, NNNS)をもとにしています。行動観察の項目は、生理学的サイン・筋緊張と運動・覚醒段階(ステート)・周囲との相互作用・ストレスサインと自己鎮静行動です。 ベッドサイドでのトレーニングでは、メンターとメンティーで、主にケア中やその前後の赤ちゃんの行動やその変化に注目して観察します。その後の振り返りで、観察した行動の意味付けや、より良いケアのための提案などを話し合います。

フェーズII:両親との共同観察
赤ちゃんの行動観察を両親と一緒に行うのがフェーズIIのトレーニングです。本来両親は、赤ちゃんの行動を観察し直観的に理解できると言われています。しかし特にNICUでその力を引き出すためには、医療者からの適切な関わりや環境づくりが必要です。この共同観察を通じてメンティーは、両親の可能性に気付き、その力を引き出す大切さを実感することができるでしょう。 ベッドサイドでのトレーニングでは、両親と一緒に主にケア中やその前後の赤ちゃんの行動やその変化を観察します。既に両親が多くの観察ができていることに気付くかもしれませんし、医療者からの適切なコミュニケーションが家族の観察を促すかもしれません。そのような普段と違うコミュニケーションによる関わりが、両親や赤ちゃん、そして医療者自身にどう経験されたかを、振り返りを通じて考えます。

フェーズIII:家族背景の理解
フェーズIとIIは赤ちゃんに焦点が当たっていましたが、フェーズIIIでは家族全体のことを考えます。新生児医療において、赤ちゃんの家族の背景や思いを考慮することは、あまり重要視されていない、あるいは実際にどう臨床に生かしたらいいのか理解されていないことがあります。両親から家族背景についてのストーリーを聞き、そこから家族の思いに沿った医療や、より良い家族支援について考えることが、このトレーニングの目的です。
ベッドサイドでのトレーニングでは、両親に妊娠から出産、その後現在まで(必要なら妊娠より前のことも)の歴史を語ってもらいます。その際、医療者はCLIP-Iという半構造化インタビューを用います。振り返りでは、家族背景や医療者と両親の関わりが現在の家族にどう影響を与えたかを考え、より良い関わり方についての考察を深めます。

フェーズIV:共同意思決定(回診への両親の参加・両親と共に退院計画)
NICUの両親は退院後には、赤ちゃんに関する様々な決定を自分たちで行う必要があり、その準備をNICUで進めるというのは大切なことです。両親がNICUにおける様々な決定に関わることは多くの意味で有益で、これを共同意思決定と呼びます。フェーズIVトレーニングでは、回診や退院準備を題材に、そこでの共同意思決定がどのように行われるのか、それを促進するためにどうしたらいいか、その効果はどうか、などをメンターとメンティーで考えます。
ベッドサイドでのトレーニングは二つに分けられます。回診のトレーニングでは、両親が医師回診に参加している様子を、可能であれば第三者として観察します。両親が回診の議論にどれだけ参加できているか、またそれを促進または阻害させる要因が何なのかを観察し、振り返ります。また同時に、両親からも話を聞き、より良い回診を行うためのヒントをもらいます。

もう一つは退院準備のトレーニングです。退院には、赤ちゃんの状態が安定するだけでなく、両親のケア手技や気持ちの準備、自宅などの環境整備なども必要です。それらを両親と一緒に進めるためにどうしたらいいかを、両親へのインタビューを通じて考えます。

日本での履修手順
現在の長野県立こども病院NICUの履修完了後、日本の医療者による日本語での履修環境を構築する予定です。2025年度後半以降を目指しています。履修施設は随時このページあるいはSNSなどで募集予定です。

NICU単位での履修を基本としています。
履修の最初の段階は、トレーニングを先行履修し他のスタッフのトレーニングを進めるメンターの育成です。メンターの育成は、まず長野県立こども病院で5日間のトレーニングを行うことから始まります。トレーニングに関するレクチャーや各トレーニングのフェーズの体験を通じて、Close Collaboration with Parentsトレーニングの概要を理解します。また、トレーニングを通じてスタッフ個人や病棟がどのように変化することができるかも、肌で感じてもらえると思います。その後、各トレーニングのフェーズに沿って、Eラーニングで理論を学習し、ベッドサイドトレーニングを実施し、リモートで長野県立こども病院のトレーニングチームとその振り返りを行います。最後に履修するNICUで5日間、各フェーズのトレーニングを復習し、メンターのトレーニングを終了します。またこの期間では、その後にNICUのスタッフへどのようにトレーニングを行うかについても、メンターや病棟管理者、長野のトレーニングチームの間で話し合いを持ちます。メンターの育成には4-6か月程度かかります。
その後にメンターは、NICUの他のスタッフへのトレーニングを開始します。メンターやスタッフの人数、トレーニングの実施頻度によりますが、履修は6-18か月ほどかかります。スタッフのトレーニングを進める部分が、Close Collaboration with Parentsトレーニングの最も難しい要素の一つです。メンターがトレーニングに慣れる必要があるほか、トレーニングを進めるにあたっての障壁や予期せぬトラブルなどが起こり得ます。それらの問題をメンターと一緒に解決しながら、トレーニングの進捗状況を把握し、メンターを励ます目的で、定期的なフォローアップの機会を設けます。必要に応じてフォローアップの頻度や時間は変わります。スタッフのトレーニングが終了するまでは、メンターや病棟全体のトレーニングを責任もって支援します。フィンランドのチームとも定期的にやり取りし、必要あれば具体的な相談も行います。